一昨日、”1例目の乳房再建手術(乳がん手術時のエキスパンダー挿入)”を
施行しました。
一昨日、”1例目の乳房再建手術(乳がん手術時のエキスパンダー挿入)”を
施行しました。
2013年、アメリカの有名な女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんが見つかっていないにもかかわらず、両方の乳房を切除したことが話題になりました(同時に乳房再建術も行っていますね)。テレビのワイドショーでも大変話題になりましたので覚えていらっしゃる方も多いかと思います。彼女はなぜ乳房を切除したのでしょうか?それは乳がんにかかる可能性が高いことが分かったからです。
みなさんは遺伝性乳がん・卵巣がんという病気をご存知でしょうか?現在、日本で乳がんができる人は年間8万人以上いらっしゃいますが、そのうちの5%くらいは遺伝性乳がん・卵巣がんと言われています。BRCA1遺伝子または、BRCA2遺伝子の異常を親から受け継いだ方がかかる乳病気です。
この遺伝子に生まれつき異常を持っている場合、乳がんや卵巣がんにかかる割合が高いことが分かっており、血のつながりのある親族にも乳がんや卵巣がんにかかった人が多く見られます。
アンジェリーナさんはBRCA1遺伝子に異常があったそうです。異常が見つかったからといって必ず乳がんになるわけではありませんが、病気になる可能性は高くなります。
アンジェリーナさんのように病気になる前に乳房を切除する方法は世間をあっと言わせましたが、まだ一般的ではありません。
しかし、遺伝子異常の有無を知ることによって早期発見のための検査を行う間隔や方法が変わってきますからとても有益です。しかし、ご自身の遺伝子検査を行うということは精神的な苦痛を伴うことでもあります。遺伝子検査は誰かに勧められて受けるものではありません。まず、カウンセリングを受ける必要があります。
そして、遺伝子検査を受けて分かること、分からないこと、検査結果にどう対応するか、どのような影響が生じる可能性があるかなど、よく考えた上で、自分自身で受けるかどうかを決める検査です。
現在、カウンセリングやBRCA遺伝子検査を行うことは一部の施設に限られています。
2015年9月から当院でも遺伝子カウンセリングやBRCA遺伝子検査が可能になりました。
不安のある方はご相談下さい。
乳がんの患者さん全体では5-10%の方が遺伝性と考えられています。
第1回キャンサーボードのご案内
当院は、熊本県指定がん連携拠点病院として造血器腫瘍や肝臓がんをはじめとしたがんの治療をこれまで行ってまいりましたが、平成27年4月から乳腺センターが新設され、これまで以上に多くの患者さんが来院されています。医師および専門性を持ったメディカルスタッフが各部門との連携をとり、チーム医療の推進のための取り組みを行っております。その一環として、この度、院内および地域医療施設の皆様との合同キャンサーボードを開催することといたしました。皆様にはご多忙とは存じますが、どうぞご出席下さいますよう、よろしくお願い致します。
平成27年7月29日
くまもと森都総合病院副院長 西村令喜
全てのがん診療に関わる医療スタッフの皆様、どなたでも参加可能です。
お問い合わせ先:薬剤部 森岡 淳子 ℡:096-364-6000(代)
乳頭には15~20本の乳管洞が開口していますが、さらにそこに連なる多数の乳管と小葉構造からなっています。乳がんはこの乳汁を分泌する小葉上皮あるいは乳管の上皮が悪性化したものであり、近年の日本人女性の悪性腫瘍のなかでは最も頻度の高いものとなっています(12人に一人)。
乳がんは、小葉由来の小葉がんと乳管由来の乳管がんとに大別されます。乳管内あるいは小葉内にとどまっているものを非浸潤がんといいます。欧米では非浸潤性小葉がんは悪性疾患としては扱われず、経過観察が原則になっています。浸潤がんは血管やリンパ管から全身への血流にのり、リンパ節、骨、肺、肝臓、脳などに転移する可能性があります。
特殊な乳がんとして乳頭や乳輪の湿疹状のただれを症状とするパジェット(Paget)病がありますが、予後は非浸潤がんと同様に良好です。また乳房全体があたかも乳腺炎を起こしたように赤く腫れ、すみやかに全身への転移を起こす炎症性乳がんという極めて予後不良のタイプもあります。
乳がん特有の症状はありません。唯一の症状は、痛みを伴わないしこり(乳房腫瘤)です。患者さんは自分で腫瘤を触れることができます。また一部の乳がんでは乳頭からの分泌物を症状とすることがあります。乳がんによる乳頭分泌物は血液が混じった赤色、黒色、茶褐色などのものが多い傾向にあります。一般的に痛みは乳がんの症状ではありませんが、痛みで病院を受診し、偶然に乳がんが発見されることもあります。
骨や肺に転移して初めて乳がんが発見されることもあります。一方、全く症状のない方が、検診のマンモグラフィで発見されることもあります。そういう場合、前述しました非浸潤がんという早期で発見される割合が多くなっています。
乳がんの診断は視触診が基本ですが、小さなしこりや大きい乳房での診断は難しい場合もあります。そのための補助的な診断法としては乳房X線撮影(マンモグラフィ)、超音波検査を行います。X線撮影で腫瘍の陰影や石灰化など典型的な所見があれば、乳がんが強く疑われます。また、超音波検査では、特徴のある不整形の腫瘤像が認められれば乳がんが疑われます。これら診断法を組み合わせて行います。
右乳房のしこり
右乳房の微細石灰化
乳がんの疑いがあるときなどには細胞診、針生検などの顕微鏡的検査を行います。細胞診は腫瘤を注射針で刺して細胞を注射針内に吸引して、あるいは乳頭分泌物があるときは直接プレパラートに分泌物を付けて、顕微鏡で観察して良性か悪性かを判断する診断法です。一方、やや太い針による組織生検では細胞診よりも正確な診断が可能です。
乳がんが乳腺内にどのくらい広がっているか、あるいはリンパ節、肺、肝臓、骨などへの転移があるかどうかを調べるには、造影CTや骨シンチが用いられています。また、乳房内の広がり診断にはMRIが用いられます。一方、腫瘍マーカー(CEA、CA15-3)が手術時点で高値を示すことはほとんどなく、診断上の意義は少ないと判断されています。
乳がんの治療法には局所治療(手術、放射線治療)と全身療法(薬物療法)があります。さらに手術としては乳房に対する手術(乳房温存手術か全摘出か)と腋窩リンパ節に対する手術(センチネルリンパ節生検かさらなるリンパ節郭清か)があります。また、放射線治療におきましても乳房およびリンパ節に対する治療法があります。そして、全身療法としての薬物療法は重要で、乳がんの性質に即して選択されます。
脇に小切開を加え、青染したリンパ節を取り出し、転移陰性であった。
乳がん組織のホルモン受容体が陽性なら、ホルモン療法が主体になります。受容体が陰性の場合や4個以上のリンパ節転移がある場合、腫瘍の組織学的悪性度が高い場合、増殖スピードが速い場合は、抗がん薬治療を考慮します。HER2(ハーツー)陽性の場合には抗ハーツー療法が行われます
各患者さんの乳がんには同一なものはなく、それぞれが異なった性格を持っていることは以前から指摘されていました。近年、遺伝子検査により乳がんを大きく5つのタイプに分ける考え方が示されました。しかし、一般臨床においてはその方法は困難です。そこで、ホルモン感受性(エストロゲン、プロゲステロン受容体)、HER2(ハーツー)発現、そしてKi-67(増殖能のマーカー)を病理学的に調べることで、上記の5つのタイプを区別できることが認められ、ほぼ一般化されつつあります。
1. ルミナル A (Luminal A) |
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ホルモン受容体陽性でHER2陰性、かつKi-67が低い場合(20%以下) ホルモン感受性が強く、化学療法は不要(リンパ節転移が少数でも) |
2. ルミナル B (ハーツー陰性)タイプ (Luminal B / HER2 negative) |
ホルモン受容体陽性であるが、Ki-67が高い場合(20%以上) ホルモン療法に効くが不十分で、化学療法が必要 |
3. ルミナル B (ハーツー陽性)タイプ (Luminal B / HER2 positive) |
ホルモン受容体、HER2ともに陽性の場合ホルモン療法では不十分で、化学療法・抗ハーツー療法(ハーセプチン)が必要 |
4. ハーツー陽性-非ルミナル (HER2 positive / non luminal) |
ホルモン受容体陰性で、HER2陽性の場合 化学療法と抗ハーツー療法(ハーセプチン)が必要 |
5. トリプル ネガティブ タイプ (Triple Negative) |
ルモン受容体陰性、HER2陰性の場合化学療法が有効 |
6. その他 |
髄様がん、アポクリンがんでは化学療法は不要のことが多い |
乳がんに関する正しい情報、知識を持つことが最も大切です。そして、乳がんかどうかの正確な診断がまずは重要で、スタートです。