乳がんとはどんな病気?

乳がんについて

 乳頭には15~20本の乳管洞が開口していますが、さらにそこに連なる多数の乳管と小葉構造からなっています。乳がんはこの乳汁を分泌する小葉上皮あるいは乳管の上皮が悪性化したものであり、近年の日本人女性の悪性腫瘍のなかでは最も頻度の高いものとなっています(12人に一人)。

 乳がんは、小葉由来の小葉がんと乳管由来の乳管がんとに大別されます。乳管内あるいは小葉内にとどまっているものを非浸潤がんといいます。欧米では非浸潤性小葉がんは悪性疾患としては扱われず、経過観察が原則になっています。浸潤がんは血管やリンパ管から全身への血流にのり、リンパ節、骨、肺、肝臓、脳などに転移する可能性があります。

 特殊な乳がんとして乳頭や乳輪の湿疹状のただれを症状とするパジェット(Paget)病がありますが、予後は非浸潤がんと同様に良好です。また乳房全体があたかも乳腺炎を起こしたように赤く腫れ、すみやかに全身への転移を起こす炎症性乳がんという極めて予後不良のタイプもあります。

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(アストラゼネカ株式会社-All About Breast Cancerより、一部改変)

症状

 乳がん特有の症状はありません。唯一の症状は、痛みを伴わないしこり(乳房腫瘤)です。患者さんは自分で腫瘤を触れることができます。また一部の乳がんでは乳頭からの分泌物を症状とすることがあります。乳がんによる乳頭分泌物は血液が混じった赤色、黒色、茶褐色などのものが多い傾向にあります。一般的に痛みは乳がんの症状ではありませんが、痛みで病院を受診し、偶然に乳がんが発見されることもあります。

 骨や肺に転移して初めて乳がんが発見されることもあります。一方、全く症状のない方が、検診のマンモグラフィで発見されることもあります。そういう場合、前述しました非浸潤がんという早期で発見される割合が多くなっています。

診断、検査法

 乳がんの診断は視触診が基本ですが、小さなしこりや大きい乳房での診断は難しい場合もあります。そのための補助的な診断法としては乳房X線撮影(マンモグラフィ)、超音波検査を行います。X線撮影で腫瘍の陰影や石灰化など典型的な所見があれば、乳がんが強く疑われます。また、超音波検査では、特徴のある不整形の腫瘤像が認められれば乳がんが疑われます。これら診断法を組み合わせて行います。

b_cancer_2右乳房のしこり

b_cancer_3右乳房の微細石灰化

 乳がんの疑いがあるときなどには細胞診、針生検などの顕微鏡的検査を行います。細胞診は腫瘤を注射針で刺して細胞を注射針内に吸引して、あるいは乳頭分泌物があるときは直接プレパラートに分泌物を付けて、顕微鏡で観察して良性か悪性かを判断する診断法です。一方、やや太い針による組織生検では細胞診よりも正確な診断が可能です。

 乳がんが乳腺内にどのくらい広がっているか、あるいはリンパ節、肺、肝臓、骨などへの転移があるかどうかを調べるには、造影CTや骨シンチが用いられています。また、乳房内の広がり診断にはMRIが用いられます。一方、腫瘍マーカー(CEA、CA15-3)が手術時点で高値を示すことはほとんどなく、診断上の意義は少ないと判断されています。

治療法

 乳がんの治療法には局所治療(手術、放射線治療)と全身療法(薬物療法)があります。さらに手術としては乳房に対する手術(乳房温存手術か全摘出か)と腋窩リンパ節に対する手術(センチネルリンパ節生検かさらなるリンパ節郭清か)があります。また、放射線治療におきましても乳房およびリンパ節に対する治療法があります。そして、全身療法としての薬物療法は重要で、乳がんの性質に即して選択されます。

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脇に小切開を加え、青染したリンパ節を取り出し、転移陰性であった。

 乳がん組織のホルモン受容体が陽性なら、ホルモン療法が主体になります。受容体が陰性の場合や4個以上のリンパ節転移がある場合、腫瘍の組織学的悪性度が高い場合、増殖スピードが速い場合は、抗がん薬治療を考慮します。HER2(ハーツー)陽性の場合には抗ハーツー療法が行われます

近年の乳がん治療の考え方 -5つのタイプに分ける-

 各患者さんの乳がんには同一なものはなく、それぞれが異なった性格を持っていることは以前から指摘されていました。近年、遺伝子検査により乳がんを大きく5つのタイプに分ける考え方が示されました。しかし、一般臨床においてはその方法は困難です。そこで、ホルモン感受性(エストロゲン、プロゲステロン受容体)、HER2(ハーツー)発現、そしてKi-67(増殖能のマーカー)を病理学的に調べることで、上記の5つのタイプを区別できることが認められ、ほぼ一般化されつつあります。

1. ルミナル A (Luminal A)
ホルモン受容体陽性でHER2陰性、かつKi-67が低い場合(20%以下)
ホルモン感受性が強く、化学療法は不要(リンパ節転移が少数でも)
2. ルミナル B (ハーツー陰性)タイプ (Luminal B / HER2 negative)
ホルモン受容体陽性であるが、Ki-67が高い場合(20%以上)
ホルモン療法に効くが不十分で、化学療法が必要
3. ルミナル B (ハーツー陽性)タイプ (Luminal B / HER2 positive)
ホルモン受容体、HER2ともに陽性の場合ホルモン療法では不十分で、化学療法・抗ハーツー療法(ハーセプチン)が必要
4. ハーツー陽性-非ルミナル (HER2 positive / non luminal)
ホルモン受容体陰性で、HER2陽性の場合
化学療法と抗ハーツー療法(ハーセプチン)が必要
5. トリプル ネガティブ タイプ (Triple Negative)
ルモン受容体陰性、HER2陰性の場合化学療法が有効
6. その他
髄様がん、アポクリンがんでは化学療法は不要のことが多い

おわりに

 乳がんに関する正しい情報、知識を持つことが最も大切です。そして、乳がんかどうかの正確な診断がまずは重要で、スタートです。